記事元:ヒトサラMAGAZINE

今注目の日本のフレンチ。連載第4回目は、富山を代表するフレンチ【レヴォ】。この店がなぜこれほどまで人々の心をつかむのか。それは食材からしつらえに至るまですべて、富山に対するあふれんばかりの愛情を感じるからであろう。これこそが前衛的地方フレンチである。

CHEF'S EYE

✔土地を知ることでレストランの風景が見えてくる
✔メイドイン富山にこだわり抜く!
✔富山の魅力を伝える発信基地へ

土地の魅力に気づき、料理観が180度変わった!

シェフの谷口英司氏

 和の料理人だった父親の背中を見て育ち、高校卒業後は板前を目指し、宝塚の旅館に入社した谷口英司氏。そこで洋食部門へ配属されるとその魅力に惹かれ始める。その後、神戸でフレンチを学び渡仏。フランスの三ツ星【ベルナール・ロワゾー・オガニザシオン】で修業し、帰国後は神戸市内のレストランなどでシェフを務めた。2010年、谷口氏に転機が訪れる。【レヴォ】の前身、【西洋膳所 サヴール】のシェフになるために初めて富山の地に足を踏み入れたことが始まりだ。

イカの黒づくりを塗り、甘鯛の熟成感を引き出した『漆黒』

「本当は大都会でモダンな料理を作りたいと思っていたんです。だから初めは富山という地になじめなかった。でも田舎という土地柄か、生産者の方などとも近く、話す機会に恵まれたんです。そこから僕の料理が180度変わっていくことになりました」。

富山には日本海独特の魚の文化や昆布の文化がある。魚は新鮮なほどおいしいと思われがちだが、実はそうとは限らない。「荒波にもまれる日本海の魚は筋肉質で硬いので、昆布じめにするなど熟成をかけることで柔らかくおいしくなるんです。野菜などもその土地ならではの旬や使い方があり、それを料理人が知るほどに料理に反映されていくんです」と谷口氏。

 例えば、この『漆黒』という料理。富山の食文化の代表ともいうべきイカの黒づくり(イカの塩辛にイカスミを入れたもの)を甘鯛に塗って熟成させたもの。風味を出すだけでなく、黒づくりには熟成を促進させ身を柔らかくする成分がたくさん含まれるそうだ。その土地を知れば知るほど料理に物語が生まれ、レストランの風景が見えてくる。「自分のテクニックさえあればレストランはレベルアップできると思っていた考えがまるで変わりました」。

食材だけでなく、器やしつらえにも富山にこだわり抜く

食器のひとつひとつにも込められた、富山への愛情

 富山への愛は食材だけに留まらない。神通川沿いの美しい景色を望む、木材をベースにしたぬくもりのある店内。ここでは目に映るほとんどのものが地元に関するものだ。富山在住作家がつくるテーブル、立山連峰を彷彿させるお箸、名産のしけ絹を用いたメニュー表……。ここには富山の魅力が凝縮されている。

「わざわざ足を運んでくださっているお客様に地元のテロワールを感じてもらいたい。それには料理だけでなく、器やしつらえなども大切だと思います。器もオーダーするのではなく、作家の方が提案してくださったものを使う。そうすることで、こんな料理を作ってみよう、この作家の思いを料理に反映させてみようと新たな料理も浮かんでくるんです」。

挨拶代わりとして供される、4~5皿からなる『プロローグ』

 そんな谷口氏は、富山の土地から生まれる食文化や食材を知れば知るほど、もっと知りたくなっていくという。自ら野菜を栽培し、山菜などの収穫もする。スタッフと一緒に天然水を汲みにも行く。山々のジビエ、日本海から届く海の幸も豊富に届く。それらにシェフの感性を落とし込む。それを富山の器や風景の中でいただく。富山を愛し抜き、生産者や作家と一体になった料理がここにはある。これこそが一歩進んだ地産地消であり、前衛的地方フレンチなのだろう。

「コースの初めのアミューズには、富山を代表する食材を詰め込みました。鯖のリエットをサンドした八尾町の最中。深海魚のゲンゲを使った揚げ物。山羊のチーズのグジェール。こんな食材も富山にあるのだと知っていただきたいという思いを込めています」。

富山の魅力を伝える発信基地へ

葡萄づくりから手がけるワイナリーによる、オリジナルワイン

 使うものすべてのものに惚れ込むのが大切と胸を張って言う谷口氏。「料理人とスタッフが一丸となってお客様に自分たちの知識を伝えるのが大切です。だから、自らの足を使ってとことんそのものに惚れ込む。そうすることで気持ちが伝わると思うんです。【レヴォ】の料理を食べた後に、野菜農家に赴いたり、ワイナリーや作家の工房を見学したりしてくださるお客様もたくさんいらっしゃいます。少しずつですがどんどん富山の魅力を発信していきたいです」。

レヴォの店舗情報

谷口氏はフォーカスシェフとしてフランスレストランウィークに参加。「オリジナルで養鶏してもらっているレヴォ鶏に岩魚の酵母で仕込まれたどぶろくを合わせた料理などを考えています。富山の魅力をぜひ味わいにきてください」。

提供元: ヒトサラマガジン[hitosara magazine]
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取材・文/楠井祐介(フリーライター)