少なくともワインがお好きな方は、テロワールという言葉をよく耳にされたことがあるのでは。今年のフランスレストランウィークのテーマは「トレ・ボン!日本のテロワール」。豊かな自然の傑作、日本各地の旬の食材をフランス料理のテクニックで存分に味わう最高のチャンスです。ではテロワールとはもともと何を意味するのでしょうか? まずはその語源を探ってみます。

テロワール(terroir)は、ラテン語で「領地」を意味するテリトリウム(territorium)が語源と言われます。時とともに、特に単一品種の葡萄(赤ワインはピノ・ノワール種、白ワインはシャルドネ種)でも畑によって味わいや品質に大きな違いが生まれるブルゴーニュワインの違いを理解するためのキーワードとして、「土地」や「その土地の味」の意味でこのテロワールという言葉が使われるようになりました。畑によって違う、つまりその土地には固有の個性が存在するということ。「土地の個性」=テロワールとして認識されたのでした。

やがてテロワールという言葉はもう少し広義になり、ワインだけでなく、農作物、チーズ、肉や海産物にいたるまで、各地の特産食材などを語るときにも使われます。同じ地方で作られるワインと郷土料理、チーズなどとの組み合わせがよく合う理由として“テロワールが同じだから”と表現されることがよくありますが、気候を含めた土地の個性にその地方の風土や文化という概念が加わり、そこに愛着や価値が生まれ、食材の美味しさを語るキーワードの一つとして、テロワールは大きな意味を持っています。

では日本のテロワールとは? 日本には明石の蛸、長良川の鮎、大間の鮪、谷中の生姜、修善寺のわさびなど、生産地の名前と結びついている素晴らしい食材は数え切れないほどあります。味噌や醤油に代表される発酵食品を始め、その土地の気候風土に育まれた食材も多々あります。

さらにもうひとつ、日本のテロワールを語る時の大切なキーワードは「水」かもしれません。日本の国土の3/4を占める山。その山に降る雪が溶けて尾根伝いに川となって流れ、田んぼに引き込まれて稲を育み米を作り、やがて海に注ぎ込み、山のミネラルを海へと届けます。そして長い年月をかけて濾過された地下水は各地の日本酒の味の決め手となっています。その土地でしか味わえないもの、まさにテロワールですね。

9月23日から始まったフランスレストランウィークでは、各地方の参加シェフが地元のテロワールとまっすぐ向き合います。

長野の「ヒカリヤニシ」では池田町原木椎茸や里山辺の蕪、富山の「キュイジーヌ・レジョナル・レヴォ」では利賀村産どぶろくを、福岡の「ローブランシュ」では八女茶や阿蘇山あか牛を使ったフランス料理が楽しめるとのこと。各地の参加レストランのシェフが、フランス料理のテクニックを使い、和食では体験することのなかった食感や味の組み合わせを創造します。

新しい味わいや驚き、日本のテロワールと出合うために、まずは予約を急ぎましょう。

文・勅使河原加奈子